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「古典に咲く花」 第1回「萩」

2023.09.28 / 月野木若菜
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今からおよそ千四百年前の奈良時代、万葉人がこよなく愛でた草花といえば、「萩」。

意外でしょうか? それとも、「だろうな」と思われましたか? 萩は、今も日本各地の山野や公園などで目に触れる植物ですが、赤紫や白色の蝶々のような可憐な小花をたくさん付けて秋の風に揺れる姿は、何ともたおやかで美しく、丸みのある葉も瑞々しく愛らしい。「萩」という文字は、「草冠に秋」と書く程ですから、まさに古来より日本人が最も好んだ秋の季節を代表する植物として、不動の地位を得て来たのです。

それが証拠に、『万葉集』には百四十首以上もの萩の歌があり、他を押さえて圧倒的一位の登場回数を誇っています。山上憶良が詠んだ歌に、「萩の花尾花(おばな)葛花(くずばな)瞿麦(なでしこ)の花女郎花(をみなえし)また藤袴(ふじばかま)朝貌(あさがほ)の花」というものがありますが、ここで憶良が挙げた七品種を、今も変わらず、私たちは「秋の七草」と呼んでいます。万葉人と現代人が、長い歴史を隔てながらも、同じ草花を愛で続けているということは、まるで奇跡とも思えます。

古典文芸に詠まれている草花は、多種多様。このコラムでは、そういった草花の横顔を、少しずつお伝えして参りますので、どうぞ、時空を超えた感性の対話をお楽しみください。

十月は月の美しい季節です。窓辺に萩の花をあしらい、いにしえの万葉人に思いを馳せてみるのも素敵なことでしょう。

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華道家 中村俊月 Shungetsu Nakamura
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