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風が吹く音や川のせせらぎの音を聞きながら農薬・化成肥料を使用しない農法を京都・大原で手掛ける「音吹畑」

2023.10.24 / 高村学
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「音吹畑(おとふくばたけ)」の髙田潤一朗さんと妻の深幸(みさ)さんは、京都府・大原で農薬や化成肥料を使用せずに野菜やハーブを育てています。「音吹畑」の畑には、蝶やトンボといった昆虫はもちろん、ミミズや微生物など多様な生き物が溢れています。髙田潤一朗さんは、土壌に住むミミズや微生物が適度に働くために必要な餌となる肥料を与えれば、農薬や化成肥料は不要だと考えます。そうした考えから、「野菜を作る」のではなく「野菜を作る環境、つまり土を作り育てる」という視点に行き着いたと言います。そういった考えで作った野菜やハーブは、一般の家庭はもちろん、プロの料理人たちからも支持されています。

「農薬・化成肥料を使用しない農法で野菜やハーブを育てていると、枯れてしまったり、育たなかったりしたことはいくらでもあります。ただ、人間にはコントロールできない領域が自然にはあることを改めて感じさせてくれます。自然の本当の美しさとはそういったことなのかもしれません」と、髙田潤一朗さんは語ります。今回、「音吹畑」の髙田潤一朗さんに大原という里山に惹かれ、さらには農業や自然に惹かれた理由についてお話を伺いました。

■大原で農薬・化成肥料を使用しない農法
2008年に大原に移住して初めて自分の畑を持ちました。少しずつ面積を増やしていき、最初は空芯菜の種を蒔きましたが、今は少量多品種で50から100品種ほど育てています。畑で栽培した履歴は全部データに残して、品種の作付けなどを考えながら育てています。農薬や化成肥料を使わない農法で育てているので、害虫にやられて出荷に至らなかったことはたびたびありますが、「音吹畑」の畑では土の許容量をあげて、土そのものの力だけで育てられるような方向を目指しています。農薬・化成肥料を使用しない農法に行き着いたのは、2年ほど修行させていただいた大分県の宇佐佐藤農園の影響があります。その農園の師匠は農薬を使わずに多品種の野菜を育てていました。オーソドックスな野菜作りはそこでほとんど学びました。

農業を志したのは成人してからですが、小学校にあがる前、祖母が畑でスイカを作っていた記憶が朧げに残っています。祖父母が畑や田圃をやっていましたので、幼い頃のそういった記憶が農業をやろうという思いに多少は影響しているのかもしれません。それと、大分県の師匠の元で修行する前に、青森県で農と暮らしに寄り添った農家と出会い、1カ月ほど住み込みで働いたことがあります。薪ストーブを囲みながら林檎ジャムを煮込むのですが、みんなといろいろな話をしながら作業するのがとても楽しく、段々と農村の魅力や面白さに惹かれていきました。

■大原の魅力
僕も妻の深幸も歴史を研究しているのですが、妻は大学生の頃に大原に来たことがあり、それが心に残っていたようです。僕が先に農家になり妻を誘いましたが、もともと農業への考えや田舎暮らしへの思いはあったようで妻も大原での生活に合わせてくれました。大分県で修行している間も、オーベルジュで働き、田舎暮らしができるかどうかを試してくれていました。

僕は京都府・伏見の出身ですが、ここ大原は昔から京都市内に薪を供給するような自給山村で、非常に面白いエリアだと感じています。文化的な側面では国家の中枢におられた人々の隠棲・出家の里、流通においては若狭街道の中継地点であり、比叡山の山麓は天台宗の賢者が修行する場所でもあります。農村としては赤紫蘇の街として知られていますが、ガスの普及によって薪が必要なくなった当時、しば漬けを作り始めたことがきっかけです。赤紫蘇に適しているということは湿度が高く、ナスやオクラなど水が大好きな野菜は育ちやすいです。赤紫蘇も夏でも暑さに負けず葉の裏まで赤くなります。ここ数年、漬物の歴史も学びながら赤紫蘇に目を向けています。赤紫蘇は他の植物と比べると育てやすいですし、コロナ禍で梅干しを作る人も増えました。

■20種以上のハーブ
ハーブは、畑のすみに植えて少しずつ育ててはいたのですが、妻の子育てが落ち着いたタイミングで本格的に栽培に取り組みました。今は妻がハーブを全般的に担当しています。野菜を卸しているレストランの料理人からのリクエストも多く、今では20以上のハーブを育てています。スパイシーな香りがあるフェンネルやスイスリコラミント、ナスタチウム、バジル、セージイタリアンパセリなどを育てていて、思っていた以上にニーズがありました。

ミントにはいろいろな香りがあって、清涼感があります。例えば、レモンバーベナはちょっと触れるだけでレモンの香りがして、本当にフレッシュです。ボリジはきゅうりの新芽のような香りで、オイスターリーフの代用としても使います。ブルーマロウはドライハーブにしたり、ハーブティーにして楽しめます。ブルーマロウはレモンをたらすと赤紫蘇色に染まり、とても綺麗です。妻は香りだけではなく視覚的にも楽しめるハーブティーのブレンドを意識しています。

今は毎週日曜日に大原の里の駅で朝市を開催して、そこで販売しています。京都にはインディーの八百屋が多く、そういった店や名店と呼ばれるレストランにも卸しています。「草喰 なかひがし」や「リョウリヤ ステファン パンネル」、「モンク」といった京都の名店の料理人たちが、市内からわりと近いこともあってか、わざわざ畑まで朝、摘みに来ます。こういう場所でこういうやり方を認めてくれる方もたくさんいてくれて、そこに誇りを感じています。野草やハーブを中心にしたイベントも不定期で開催していますが、畑の中でこういったことがやりたいと思ったのも、僕らが農業に入ってきたきっかけでもあります。

■風が吹く音と川のせせらぎの音
屋号の「音吹畑」の由来でもありますが、風が吹いている音や川のせせらぎの音、葉っぱがかさかさいう音、そういった音を感じられる心持ちを忘れずに農業をやりたいという思いを大切にしたいです。畑には音もあり香りもあって、本当に豊かなことで穏やかな気持ちになれます。畑にはそういう力があるのだと思います。こういう場所は本当に居心地が良くて、都会に行こうとは思わなくなります。都会にも本当は音が流れているはずですが、自然の音をシャットアウトしているのかもしれませんね。

一方で、日本の農業が変わってきている気がします。集約的農業に進んでいくと思いますが、大原でなにができるかをいつも考えます。一緒に畑を歩いて感じることを価値にしていく、あるいは里山の価値を提供していくことが「音吹畑」として大切なことだと感じています。

■自然の本当の美しさ
農薬・化成肥料を使用しない農法で野菜やハーブを育てていると、枯れてしまったり、育たなかったりしたことはいくらでもあります。今までの作業と時間となんだったのかと思うこともしばしばです。ただ、そういったことを実際に経験すると、人間にはコントロールできない領域が自然にはあることを改めて感じます。支配管理が行き過ぎた世界より、不確定要素が多い方がひょっとしたら美しいのかなと感じます。自然の美しさとはそういったことなのかもしれません。

撮影:石川奈都子

「音吹畑」オンラインショップ:https://otofuku.theshop.jp
「音吹畑」公式インスタグラム:@otofuku
「音吹畑」公式ホームページ:http://otofukubatake.com/

Podcastオーハラジオ:京都は洛北の里山、大原に関わる人、大原の歴史、もの、事象、場所などを様々な角度から深掘りする番組を配信しています。

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華道家 中村俊月 Shungetsu Nakamura
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