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花と植物が彩る物語の世界。花好きにおすすめの映画5選

2022.06.10 / 玉田光史郎
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現実の世界を舞台にしている以上、花や植物がまったく登場しない映画というものは、存在しないのではないだろうか。大抵の場合、草花はたしかに主役ではないかもしれないが、欠かせないものとして映画の世界に生命感のある色彩を与えてくれる。今回は、そんな花や植物がフィーチャーされた映画を5本ピックアップしてみた。

「マイ ビューティフル ガーデン」

まずはガーデニング大国であるイギリスの映画から。イングリッシュガーデンは自然の摂理のままに季節の草花やハーブを育てる庭で、イギリス人はバックヤード(裏庭)の空間をとても大切にしているという。

「マイ ビューティフル ガーデン」の主人公は、几帳面すぎて植物が嫌いな女性のベラ。すべての物事に秩序を求めるベラは、規則正しい生活を送り、身の回りの物の配置も決まっていないと落ち着かない。だからこそ、本人曰く「無秩序に伸びる」植物は嫌悪の対象ですらあり、アパートの庭からも目を背けてきた。

その結果、庭は荒れ放題。やがて苦情が届き、1ヶ月で庭を元通りにしなければ退去だと家主から言い渡される。とはいえ、どう管理すればいいのかまったくわからない。そんな時、隣に住む庭好きの偏屈な老人・アルフィーがベラの作業を手伝うことになる。

アルフィーと出会い、ベラはこれまでに知らなかった植物の魅力に引き込まれていく。草花は無秩序のように見えるかもしれないが、植物には植物の秩序がある。「美しい秩序を保った混沌の世界」とアルフィーは語る。ガーデニングの奥深き世界に触れられる1作。

©︎This Beautiful Fantastic UK Ltd 2016

「リトル・ジョー」

花の美しさにはいくつもの側面がある。時として、敬虔さや恐怖さえ感じさせることも。例えば、目が覚めるような真紅の花を咲かせるヒガンバナがそう。名前のとおり、あの世とつながっているような恐ろしさがある。

『リトル・ジョー」は、遺伝子操作で生み出された新種の花が奇怪な出来事を引き起こすというスリラー作品。研究者でシングルマザーのアリスは、人間に幸福感を与え、うつを抑制する匂いを持った「リトル・ジョー」という新種の花を生み出す。この命名の裏側には、息子のジョーと十分な時間を過ごせていないという罪悪感もあった。

研究所はリトル・ジョーを大々的に発表しようとするのだが、研究所内で奇妙な出来事が起こり始める。リトル・ジョーの匂いをかいだ人間が、どこか様子が変わってしまうのだ。何が変わったのかは、上手く言えない。しかし確実に何かが違う。まるで中身だけ別人になったような…。

リトル・ジョーには生殖機能がない。それゆえに自らの花粉を通じて人間を制御しようとするのだ。まるでAIが人間に逆襲するSFのよう。美しすぎる花には、やはり棘がある。先鋭化する科学への批判も込められた、独特の世界観を持つ耽美的な映画。

©︎COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019

「ビッグ・リトル・ファーム

自然とともに生きる。その厳しさと魅力を存分に伝えてくれる驚異のドキュメンタリー映画。

映画製作者のジョンと料理人のモリーは、本当に身体にいい食べ物を育てるためにロサンゼルスから郊外に移り住み、究極のオーガニック農場をつくることを決意する。広大ながら荒れ果てた土地に2人は悪戦苦闘し、それでも笑顔を浮かべながら、地道に土地を開拓していく。

2人が目指すところは、植物と野生動物と家畜が手を取り合って共生する、楽園のような農場だ。もちろん容易い挑戦ではない。山火事や家畜の病気など、予測できなかった問題が次から次へと降りかかるが、自分たちの身体を通じて生命のサイクルを学んでいく。

例えば、野生動物や昆虫が害虫の侵入を防いでくれる。「雑草」とひとまとめにされる植物が、果樹の栄養素になる。膨大な関係者たちで成り立つ生態系は、時間の経過とともに調和を生んでいく。

8年間という年月をかけた彼らの多種多様な体験から私たちから学べるものも多い。

©︎2018 FarmLore Films ,LLC

「ターシャ・テューダー 静かな水の物語

もし天国が実在するならば、こういう場所かもしれない。それほどに美しく、静かで、童話の世界のよう。それが絵本作家でありガーデナーでもある、ターシャ・テューダーの住まいだ。ターシャの晩年の暮らしを収めたドキュメンタリー「ターシャ・テューダー 静かな水の物語」では、その豊かな生活を垣間見ることができる。

1830年代の暮らしに憧れ、電気や水道のない生活を送るターシャ。不便なことばかりのはずだが、まったく辛そうではない。それどころか、今の生活に何の不満もないのだと断言する。心を乱すものは何もなく、可愛らしいコーギー犬と一緒の暮らしは、たしかに非のつけどころがない。

ターシャが大好きだというシャクヤク、カノコソウ、バラ、ポピーなどが元気に伸び伸びと咲いている庭。30年の歳月をかけて、ここまで作り上げたのだという。野放図というわけではなく、人の手が入りすぎているわけでもない。草花と人間の適度な距離感がそこにはある。「新しい花を手に入れたときは、必ず3つ以上の場所に植えてみる」とターシャ。そうすることで、その花の生育にとって、どの環境が最適なのかわかるのだ。

ターシャの庭は、観る人を圧倒するというよりも、やわらかに包み込んでくれる。庭の美しさを味わうためだけに観ても損はしない。

「リトル・フォレスト 夏・秋

自然の恵みは、これほどに多彩で、そして美味しい。「リトル・フォレスト 夏・秋」は、五十嵐大介による原作の漫画「リトル・フォレスト」を橋本愛の主演で実写化した映画。

都会には自分の居場所がないと感じ、東北の小さな集落「小森」に帰って来たいち子。スーパーやコンビニどころか小さな商店さえ近くにない小森での暮らしは、なかば自給自足に近い。しかし、その暮らしぶり、特に食生活は充実している。

夏には、高温多湿を利用してパンを焼いたり、麹を使って米サワーを作ったり。近所になっているグミの実でジャムを作り、ハシバミの実(ヘーゼルナッツ)でヌテラを作ってパンに塗って食べたり。素朴な料理ばかりなのだけど、どれも美味しそうで、自然の豊かさに驚かされる。なにより、作業しているいち子がどことなく楽しそうなのが、見ていて嬉しい。

そして季節が変わって秋。都会にいては気づけないけれど、季節が移ると草花たちが入れ替わり、世界がガラリと変わる。そうすると、自然と食べる物も変わる。アケビの実を食べた後は、皮を炒めたり、揚げ物にしたり。クルミの炊き込みご飯、栗の渋皮煮など、夏とはまた違う自然の恵みが胃袋と心を満たしてくれる。

自然とともに生きる暮らしが、実はどれほど豊かな色彩と味わいに満ちているのか教えてくれる。観た後は植物への感謝と畏敬の念が湧いてくるはずだ。

©︎「リトル・フォレスト」製作委員会

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華道家 中村俊月 Shungetsu Nakamura
Shungetsu Nakamura
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華道家 中村俊月 Shungetsu Nakamura

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