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コラム「古典に咲く花」 第11回「桔梗」

2024.07.30 / 月野木若菜
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万葉の頃より、日本人に馴染み深い「桔梗」。

山上憶良が秋の七草を詠んだ「萩の花、尾花葛花、撫子の花、女郎花 また藤袴、朝顔の花」にある「朝顔の花」こそが「桔梗」と言うのが定説です。

夏から秋にかけて青紫色の星型の花を咲かせる優美な花ですが、根は痰や咳の薬草として用いられています。その漢字の読みから、古くは「きちかう(きちこう)」とも呼ばれ、縁起の良さとシンプルな花形から、多くの武将の家紋にも用いられました。中でも明智光秀の水色桔梗の家紋は有名で、光秀に討たれた織田信長の末裔は、今も桔梗の花は飾らないという風聞もあるようです。

京都市上京区の「廬山寺」は、かつて紫式部が邸宅を構え、藤原宜孝と暮らし、一人娘の賢子を育て五十九歳で亡くなるまで、「源氏物語」をはじめ、「紫式部日記」「紫式部集」など数々の名作を執筆したと伝わる場所です。私も幾度か訪ね、白砂と苔の庭に桔梗が咲き誇る、美しいコントラストに見入ったことを思い出します。

『新古今集』で紫式部が詠んだ「めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月影(百人一首では「月かな」と表記)」の歌碑も廬山寺にありますが、この歌は、久しぶりに逢う幼馴染とゆっくり話せる!と楽しみにしていたのに、「じゃあ、私はそろそろ」と、そそくさと帰ってしまった友の呆気なさを詠ったものです。(雲にさっと隠れてしまう夜更けの月のように、あっという間に帰ってしまうなんて…)という虚しい感情と「まぁ、いいか」と割り切って涼しい顔をしようとする、心の襞が見えて来ます。

そもそも紫式部はあまり社交的ではなく、むしろ内向的で友達も少なかったと言われていますので、桔梗の花の凛として少し孤高な印象と、紫式部の性格もどことなく重なります。

紫式部は源氏物語の中の主要な登場人物に「紫」に関連する名を用い、清少納言は『枕草子』〈めでたきもの〉に、「すべてなにもなにも紫なるものはめでたくこそあれ。花も糸も紙も」と、大の紫色好きを公言。

「紫色」は、603年に聖徳太子が制定した冠位十二階で最高位の公式の服の色となり、気品、風格、優雅という、あらゆる美の条件を満たす魅力的な色として人々の関心を得ましたが、青みを帯びた「桔梗色」は、平安時代から愛されていた伝統色で、『宇津保物語』や『栄花物語』などの王朝歴史物語にも登場します。

桔梗の花言葉は、「変らぬ愛」「誠実」「気品」「清楚」。
猛暑続きではありますが、8月7日は立秋。桔梗の色に古の涼やかさを感じてみませんか。

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華道家 中村俊月 Shungetsu Nakamura
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