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今は亡き『地球交響曲(ガイアシンフォニー)』龍村仁監督に教えられた「かつて人が、花や樹や鳥たちと本当に話ができた時代」

2024.01.25 / 高村学
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「かつて人が、花や樹や鳥たちと本当に話ができた時代がありました」。そんな語りから始まる『地球交響曲(ガイアシンフォニー)』は、イギリスの生物物理学者ジェームズ・ラブロック博士が唱えたガイア理論に勇気づけられ制作されたドキュメンタリー映画シリーズで、1992年公開の『第一番』から2021年に完成した『第九番』まで全9作品で構成されています。この壮大な作品を制作・監督した龍村仁さんが2023年1月2日に亡くなられ、ちょうど1年が経ちました。

『地球交響曲』には、8千メートル峰全14座を無酸素で単独登頂に成功した登山家のラインホルト・メスナーを始め、古代ケルトの魂を甦らせたアイルランドの音楽家のエンヤ、米国の宇宙飛行士でアポロ9号の月着陸船操縦士のラッセル・シュワェイカート、人類史上初めて素潜りで100メートルを超えて潜水したダイバーのジャック・マイヨール、第14代ダライ・ラマらが出演しています。この作品のなかで繰り返し語られているのは、地球=ガイアをひとつの生命体と捉え、私たち人類もその一部であり、その大いなるもの=ガイアのなかで生かされ、そして調和しながら生きているということです。

「魂の映画監督」とも称された龍村仁監督に初めてお会いしたのはちょうど『第八番』を撮り終えた頃でした。『第八番』では、「宇宙の魂(Universal Mind)」なるものを地球上で体現しているのが「樹」だと捉え、物語が進みます。龍村監督は以前、カナダのハンソン島の森の奥で樹齢千年を越える杉の巨木と出会った時に訳もなく涙が溢れ出し、その時に自分の身体には樹木と交感できる何かが存在するという確信のようなものが生まれたと話します。龍村監督には肉体や魂を超越したような不思議なエピソードが数多くあり、こうした実体験が『地球交響曲』のなかで独特の感性とともに表現されているのです。

生涯を掛けて『地球交響曲』を撮り続け、まさに「ガイアの魂」へと昇華した龍村監督は、このシリーズを通してたくさんの大切なメッセージを遺していきました。龍村仁監督を偲んで、初めてお会いした時に監督自らが遺したことばを記します。

◼️大いなる仕組みのなかで生かされている
何十億年も前、地球上に生命が誕生するためにまず働き始めたのは樹木や植物でした。生命は海から誕生しましたが、樹木や植物は光合成をして大気中の二酸化炭素を取り込み、酸素を廃棄物として空中に吐き出しました。それが地球のまわりをだんだん覆うようになり、成層圏を形成して生命が生きていける環境へと整えました。

以来、樹木や植物は何億年にもわたって地球の大気中酸素濃度を21%に保ち続けているわけです。そして、この途轍もない設計図のもとに生命が誕生し、宇宙的規模の絶滅の危機に遭いながらもその度に進化して今の私たち人類がいるわけです。この大いなる地球の仕組み、あるいは宇宙や太陽系の仕組みのなかで、私たちはすべての生命、空気、水、土や樹などと有機的に繋がりあい、自分ではないものとともに生きているのです。それがガイア理論と呼ばれるものです。

◼️人智を超えたなにかに生かされている体感
人類はこうした仕組みのなかで守られていて、自然との共生などとあえて言わなくても何億年にもわたって自然と共生してきたおかげで今があるわけです。しかし、テクノロジーが急速に発達していくなかで、現代はこうした仕組みを見えづらくしている可能性があります。この時代に与えられたテクノロジーを使って一生懸命に生きようとすることは悪いことでも間違ったことでもありません。ただ、我々のような生命が生きていられる環境があるのは水や太陽はもちろん、樹木や植物のおかげだということを意識し直すべきです。それを頭で理解するのではなく、人智を遥かに超えたなにかに生かされている体感こそを取り戻さないといけないと思います。

『第三番』に出演した星野道夫を始め、『地球交響曲』の出演者は全員それをわかっているのです。個人の特殊な能力のおかげではなく、もっと大きな繋がりのなかで生かしてもらっている感覚を持っています。ジャック・マイヨールを始め、出演者はみな気難しく、ゴーイングマイウェイの極地のような人ばかりですが、自分の命は自分だけの所有物ではなくて、宇宙的タイムスケールの中で生かされていることを体感で知っているのです。

◼️開花しないでいる能力
実は、『第八番』は腰椎の骨が折れたまま撮影に挑み、痛みに耐えながら撮り続けました。ただ、常に痛みがあったかというとそうではありません。自然治癒力が備わっていることは確信を持っていましたが、人間には一箇所で受けた痛みを全身に散らして緩和する能力も備わっているのだとわかりました。その時、人間にこんな能力が発現するのかと思いました。しかし、こうした能力は稀有に持たされたものではなく、すべての人にもたされているのです。それが利便と安楽だけを求める科学技術文明の流れのなかで見失っていき、開花しないでいるのだと思います。科学技術文明の補助のおかげでなんでもできると錯覚して、自分のなかに秘めている途轍もない能力を無視してしまっているのだと思います。

◼️時空を超えた繋がり
大気のなかの酸素濃度を21%に保つために、CO2が多くなれば減らし、少なくなれば増やすという仕組みをコントロールしているのは樹木や植物であって、人間が自然や地球をコントールできるわけがありません。それができると思って、密林を伐採し、環境を破壊してきました。大地震や大津波の発生は、人間の科学技術文明が引き金を引いてしまった可能性はあるかもしれません。日本文化のバックグラウンドや歴史を顧みてみれば、いつの時代でもこうした能力や自然に対するビビッドな感覚は持っていたはずで、それを思い出させないようにしている文明が現代なのだと思います。かつて人が、花や樹や鳥たちと本当に話ができた時代は本当にありました。

音楽を聴いて涙を流している理由をうまく説明できないのと同じように、この感覚をうまく説明することは難しいことかもしれません。辛いこと、悲しいこと、いろいろなことがありますが、時空を超えてなにかの繋がりによって生かされている、ただ生きているのではなく生かされている、その体感を人間は持っているはずであり、その感覚を宇宙的覚醒と言ってもいいですが、宇宙的な目覚めの時代なのだと感じています。『地球交響曲』をこんなにたくさん作るとは思ってもいませんでしたが、この作品を観た人たちにもこういったことを感じ取る能力が絶対にあるはずだと思います。

◼️最後に、龍村仁監督が問い続けるもの
「かつて人が、花や樹や鳥たちと本当に話ができた時代」は、もはや過去の時代なのでしょうか。大いなるガイアのなかであらゆる生命と調和しながら生きていることを実感すべき時代こそ、今なのではないでしょうか。『地球交響曲(ガイアシンフォニー)』を遺して旅立った龍村仁監督は、そのことを私たちに永遠に問いかけ続けるのです。

在りし日の龍村仁監督(龍村仁事務所提供)

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華道家 中村俊月 Shungetsu Nakamura
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