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「どんなに古いものでも、水さえ入れることができれば花は活けられ花器になる」石黒美知子さんと吉本千秋さん

2023.12.06 / 高村学
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■水さえ入れることができれば花は活けられる
桑原専慶流の師範であり、フラワーアーティストとしても活動する石黒美知子さん。京都御所の近くで花のアトリエ「アトリエ・ミッチェ・キョウト」を構え、華道家として琳派の華美をいけばなに投影するスタイルで表現活動を行なっています。一方で、古道具を扱う「ミッチェ・フルーレ・ブロカント」を手掛け、古くなった道具に花を活けて、花器として再びよみがえらせる表現活動も行なっています。「朽ちたから捨てる選択をするのではなくて、水さえ入れられれば花は活けられます」と、石黒美知子さんは話します。
 
吉本千秋さんが主宰する築100年以上の長屋を改築したギャラリー「ハナミズキ」で、「花器ではないものに花や緑を添えたらどうなるか」というコンセプトのもと、錆びたアイロンやコーヒーミル、鉄のオブジェなどに花入した26作品を展示するワークショップを今回特別に行いました。石黒美知子さんは、「いけばなは元々、正解がないところにあるものです。計算通りにいかないもどかしさ、できあがった時の喜び、花との一期一会を楽しむのが本来のいけばなの姿ではないでしょうか。花と器、それぞれが持っている表情をどう生していくかを考え、それが合わさったときは、とても嬉しいです」と話します。
 
「今回は、亡くなった父が所有していたものにも花を活けました。父は昭和3年生まれで戦争を体験し、小さいころに物が買えなかったフラストレーションなのか、アンティークをたくさん所有していました。母方の祖父の影響もあったようですが二人の趣味趣向は全く違います。その祖父は秋葉貞二という京都大学卒業の哲学者で、東京・台東区の出身です。祖父は、昭和8年4月に京都民藝同好會主催、用の美を集めて柳宗理悦氏、河井寛次郎氏とともに大丸で開催された民藝蒐集品展に出展しています。
 
今回本来は用がなくなり、さも捨てられてしまうであろうものに花を活けたのですが、いろいろな思いが溢れ、感慨深く、とても尊い存在と思っております。ブロカントの先駆者であるハナミズキさんのおかげあって、父のコレクションにも価値を見出せました。昭和ブロカントとかゲテモノと呼ばれるアンティークにはその時代の味があります。もっと楽しんで使ってほしいと願っております」。
 
落としと呼ばれる水を貯めておく器さえあれば、どんな古いものでも花器になると石黒美知子さんは考えます。「例えば、用としての役割を終えた錆びたアイロンが、花を挿すことで花器として蘇ります。もし、クリーニング店の店主が人をもてなす機会があったとして、そのアイロンに花を挿して飾るだけでちょっとした粋な遊び心になります。それから、神社ごとで異なりますが、旧暦の6月30日に執り行われる夏越の祓という神事で使われる茅の輪は、持ち帰ることができます。それをすっと抜いて持ち帰り、使えなくなった道具に活けることで、植物にとっても器にとっても再生になりますし、飾った場所が崇高な空間になるのではないでしょうか。愛着に増すものはないと思っております」。
 


■ジャンクスタイルと花
今回、展示を行なった「ハナミズキ」は、日常使いできる古道具などを中心に取り扱い、花の教室や金継ぎのワークショップなどを開催しています。オーナーの吉本千秋さんは、ジャンクスタイルを提案する店の先駆けとして知られていて、ジャンク品と呼ばれるような道具に愛着を持っています。石黒美知子さんとの展示でも、鉄製の古びた道具を花器に見立てて花や緑を活けて、オブジェに仕立てました。
 
「フランスに行ったとき、とある店の前に錆びたベンチが置いてあったのですが、店内に飾られているものよりも私にはその鉄製の古びたベンチが主役に見えました。それまでは古伊万里などの骨董を扱う店をやっていましたが、どうしても自分にはそぐわないと感じていました。日本に戻ってから古い鉄工所の跡地を借りて、京都の雅なものではなく、鉄でできた古い道具などの販売を始めました。スマートな言い方をすれば、インダストリアルデザインに近いかもしれませんが、当時はまだそんな言葉もありませんでした。普通の方が見たらただの汚いものだったかもしれませんが、経年変化していった鉄のジャンクを美しいと感じました。今でこそアートとして評価される市場ができているかもしれませんが、当時の京都では異端でした」。
 
「10年ほど前にお亡くなりになってしまったのですが、四宮さえこさんという方が『ハナミズキ』の花を担当してくれていました。四宮さんは枯れた花や枝などをざっくりと活けてくれましたが、そのバランス感覚がとても素晴らしかったです。今回の展示もそういったこともルーツにあるかもしれません」。


 
■使い捨て文化を見直したい
今年で74歳になった吉本千秋さんは、生きている限りはなにかに挑戦しようと決めています。それが他界したご主人が残した言葉だからです。「夫が亡くなる前に『ハナミズキ』を続けろと言い残しました。そのときはその意味がわからなかったのですが、気概や生きがいを持てという意味だったと思います。儲からない店を長年続けられたのも、主人のおかげです。よく手伝ってもくれました。ジャンクスタイルは主人からの影響もあったと思います。年齢的にももう十分ですし、やめようかと思うこともありましたが、陶芸家や絵描、彫刻家などたくさんの友だちが支えてくれます。『ハナミズキ』では、金継ぎのワークショップを開催していますが、大事なものを金継ぎして、手直しして使い続けることは大切な文化です。プラスチック文化や百均文化はよくないと考えています。いまや京都でもそうです。本物の木や瓦を使った住宅はやはり違いますが、そうした住居がどんどん壊されています。そのかわり本物やそれだけの質のものを使うべきです。そういう世界が絶対に必要で、日本の使い捨て文化を見直したい、そんなことをこれから伝えていきたいです」。
 
生きた植物と役目を終えた道具を組み合わせることで、本来いらないものはなにもないということを表現したおふたり。展示されたオブジェ、そしておふたりからもとてもやさしいエネルギーが感じられました。
 

撮影:石川奈都子


■「アトリエ・ミッチェ・キョウト」
公式HP:http://micche.com/index.html
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/micche__kyoto/
2023年12月13日にギャラリーカフェをオープン予定
■「ハナミズキ」
公式HP:https://873zuki.com
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/hanamizuki_antiques/

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華道家 中村俊月 Shungetsu Nakamura
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