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コラム「古典に咲く花」 第3回「紅葉」
今年は異常気象で存分に紅葉を楽しむ間もなく冬に入ってしまいましたが、今も昔も変わらず、紅葉の美しさは人の心を惹きつけるものです。
『万葉集』に歌われた「黄葉(もみぢ)」は、その文字にある通り、黄色が強調されていました。一方、平安時代の『古今集』には「紅葉」と記され、赤の鮮やかさが多く歌われています。なぜそうなのかは諸説ありますが、いずれにしても時代と共に植物への色彩感覚も移ろうということは、なかなか興味深いことです。
柿本人麻呂が最愛の妻を亡くして詠んだ挽歌「秋山の黄葉(もみぢ)を茂み惑(まと)ひぬる妹(いも)を求めむ山道(やまぢ)知らずも」は、『万葉集』の歌。「黄葉がいっぱいの秋の山に迷い込んでしまった。亡き妻を捜しに行きたいのに、その山道も分からない」という内容です。「黄」の文字は「黄泉」にも繋がり、「たとえ黄泉まで行こうとも愛する人を連れ戻したい」という思いも見え隠れする、哀しくも切ない一首です。
『古今集』にある在原業平の「ちはやぶる神代も聞かず龍田川からくれなゐに水くくるとは」は、小倉百人一首でもよく知られ、紅葉の名所龍田川が赤く染まる様子を詠んだものですが、実はプレイボーイで名高い業平が紅葉の赤を殊更に強調することで、自分を捨てた元恋人との蜜月時代の熱愛をほのめかせ、恨みがましくあてつけたとも言われています。「あれ程までに奇妙なことがいろいろと起こった神代でも、こんなことは聞いたことがないよ。龍田川の水が真っ赤に染められるなんて…」といった具合で、(ボクを捨てるなんてあり得ない!)という執着が、紅葉の美しさを余所に詠まれたと思うと、少し怖さも感じます。
人麻呂と業平。同じ「もみじ」でも、各々の心が顔立ちを違えて語りかけてきます。街の冬紅葉に、貴方は何を感じますか。
撮影:高村 学
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