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「無印良品」が千葉県南房総の「棚田オフィス」を通して提案する晴耕雨読な「農的生活」

2024.06.25 / 高村学
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三方を海に囲まれ、河川にも恵まれた田園地帯が広がる千葉県南房総エリア。冬は暖かく、夏は涼しい海洋性の気候は植物にとっても理想的な環境で、南房総エリアでは古くから農業や園芸が盛んに行われてきました。房総半島の外房に位置する和田地区では、約900年前から花卉栽培が行われ、花作りの先駆者である間宮七郎平を輩出したことでも知られています。

この南房総エリアで、「無印良品」を展開する良品計画が、持続可能なコミュニティ作りを目指してさまざまな活動を行っています。その活動のひとつが鴨川市の釜沼北集落で始めた棚田と里山の保全活動「鴨川里山トラスト」です。

◾️天水棚田の生物多様性
里山とは、人と自然が一体となり、さまざまな生態系が育まれる場所です。里山は長い年月にわたって人によって維持され、その営みが多くの恵みをもたらしてきました。鴨川市の釜沼には、雨水だけを使って耕作する天水棚田があり、この棚田もまた里山を構成する大事な要素です。天水棚田には、絶滅の危機に瀕しているアカハライモリが生息し、生物多様性を維持しています。里山に棚田があることで治水の役割も果たし、この美しいビオトープを生み出しています。

天水棚田では、コロナ禍を除いて毎年、「無印良品」の顧客たちが参加して田植え、草取り、稲刈り、収穫祭という一連の活動を行っており、その活動も今年で10年目を迎えました。こうした活動が、棚田を休耕地になることから守り、さらに生物多様性の保全にも繋がっています。天水棚田では2023年秋にインディカ米とジャポニカ米を掛け合わせた「プリンセスサリー」が初めて収穫され、米の全量を良品計画が買い取り、商品化も実現しています。「プリンセスサリー」は、パラパラした食感で香りの良いインディカ米の「バスマティ」ともちもちとした食感の国産うるち米の特徴を併せ持っており、カレーやチャーハン、それにアジア料理によく合う米として人気があります。

◾️晴耕雨読な「農的生活」
良品計画は、この美しい棚田を守りながら、「農的生活」を提案しています。晴れた日には農作業を手伝い、雨が降る日には仕事をするという、まさに晴耕雨読のような働き方のスタイルで、そのシンボルとして天水棚田のすぐそばに「棚田オフィス」を開設しました。「棚田オフィス」は4本の柱だけの2階建てで、アトリエ・ワンの塚本由晴さんが設計を手掛けました。1階は縁側のように開放されたスペースで、2階に上がると作業場がありデスクワークができます。その時に見えるのは、この美しい棚田を始めとする自然の風景です。

塚本由晴さんは「棚田オフィス」を紹介するVTRの中で、「新しい形で農村に仕事場を作ることは可能なのではないか、それが『棚田オフィス』の考えでした。そして、収穫量は経済的に僅かですが、米作りは経済に資するだけのものではありません。日本人の文化の中に米が育まれたのではなく、稲の中に日本文化が産み落とされたのです。収穫を迎えた後には、余った藁は草鞋や正月飾りになっていきます。そういう暮らしを絶やしてはいけないと、日本人なら直感的に感じます」と、その考えについて語っています。

◾️美しい棚田を眺めながら
この小さな小屋から天水棚田を眺めていると、「稲」「緑」「土」はこの美しい自然を構成する大切な要素だと気付かされます。そして、この美しい自然とそこに息づく「人」との調和こそ、日本の原風景であり日本文化そのものだと実感します。良品計画はさらに、かつての日本人がそうであったように、この風景と文化のなかに「働」が深く根ざしていく「農的生活」を「棚田オフィス」を通して目指しているのです。

良品計画が考える「農的生活」とは、農業への従事を促すことやワーケーションを単に推奨することではありません。「稲」や「緑」がある自然で過ごす時間をもち、自然という空間を大切にすることが、結果的に未来の暮らしの保全につながっていくという考え方です。そこには立派な建物も必要ないでしょう、「棚田オフィス」のような小さな小屋があれば十分なのです。

良品計画のソーシャルグッド事業部の河村玲・執行役員は、「地域社会にどんな貢献ができるのか、未来の世代になにを残せるのか、これからも考えていきたい」と、語ります。次の世代にどんなバトンを手わたしていけばいいか、ここ釜沼の里山が多くの示唆を与えてくれます。

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華道家 中村俊月 Shungetsu Nakamura
Shungetsu Nakamura
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