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コラム「古典に咲く花」 第4回「松」
年神様をお迎えする正月飾りが、店先を賑わす頃となりました。門松の主役の「松」は、祀(まつ)るに通じ神聖な木とされ、また一年中青々として樹齢も長いことから、長寿の象徴として古来より日本人に好まれています。
万葉集では七十余首が詠まれ、「松」と「待つ」を重ねて、人を待ち焦がれる歌が多いのが特徴です。
「いざ子ども早く日本へ大伴の御津(みつ)の浜松待ち恋ひぬらむ」
遣唐使として二年間国を離れた山上憶良が、帰国の途につく前に詠んだ歌で、「さあ人々よ早く日本へ帰ろう。今頃は、出航した御津の浜の松が、その名の通り我々の帰りを待ち焦がれていることだろう」という意味です。帰国の喜びと大仕事を終えた安堵が、浜で待つ松をモチーフに勢いよく伝わって来ます。
「白鳥(しらとり)の飛羽山(とばやま)松の待ちつつぞ我が恋ひわたるこの月ごろを」
これは、モテモテの貴公子大伴家持に、恋焦がれる笠女郎(かさのいらつめ)の相聞歌で、「白鳥が飛ぶ飛羽山の松のように、あなたのおいでを待ちながらも、私はずっと慕いつづけております、ここ幾月も…」という意味で、待つだけしかない身の辛さが切なく響きます。
実はこの笠女郎、万葉集に二十九首の歌を残していますが、なんとこれが全篇、家持への恋の始まりから終わりまでのラブレターで、なかなか凄い。千三百年前の奈良時代に、これほど情熱的に片思いを吐露していたのは驚きです。会いたい、会えない、待っている…が募り、最後には、痩せてきた、眠れない、辛くて千回死んでしまう…と続くのですから、悲壮感はピークです。家持への疑心や落胆が渦巻きつつも、尚まだ恋焦がれる自分。そこに重なり合うのが、「松」なのです。
ちなみに「松」は英語で「pine」ですが、同じ綴りの動詞に「恋焦がれる」という意味があるのはご存じでしょうか。万葉人が「松」に籠めた想いを考えると、奇遇としか言い様がありません。
新年も間近。縁起ものの松飾りにあやかって、2024年もどうぞ御息災に。
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