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ロンドン、パリでの生花店での修行を経て、すべて土に還せる植物でものづくりする京都・西陣の「さとう植物店」
京都・西陣で「さとう植物店」を手掛ける佐藤恵美さん。10年ほど前から植物を使い土や自然へ循環していく道具をつくり、京都を中心にワークショップを開催してきました。ちょうど2022年にここ西陣にアトリエを構え、京都にある雑貨店やパン屋の装飾などを手掛けながら、アレカ椰子を編み込んだ沖縄の民芸品のガンシナーや年末には自然農法で作られた稲でしめ縄飾りの販売もしています。
もともと生花店で働いていた佐藤恵美さんは、イギリス、そしてフランスに渡航して、現地の生花店でヨーロッパスタイルの花を学びました。「イギリスのロンドンに4年、フランスのパリには3年いました。花の生産方法は日本と同じですが、扱い方は全く異なりました。とても丁寧に扱いますし、大量に生産されて破棄されることもありません。花の気持ちに向き合っている深さはイギリスもフランスもとても深く、洗練されていました。食卓には毎日、花があり、日々の生活のなかにつねに花があります。花への愛着も全然違うのかもしれません」と、佐藤さんは話します。
日本の生花店で働いていたときは、ウェディングやファッションの装飾も手掛け、華やかな仕事に携わってきました。ただ、数時間のために大量に生産して、短時間のうちに大量に廃棄される仕事も多く、なにか違和感を感じていました。「花びらが1枚枯れていても許されないような現場で、染めた花も大量に使い、中にはアレルギー症状が出る人たちもいました。地球環境や自分の環境を考えた時に違うんじゃないかとクエスションが一気に膨らみ、一回ここで区切りをつけて渡欧しました」。
イギリスとフランスの生花店では、環境への意識がとても高いことを感じたそうです。「イギリスは特にその意識が高く、すべて循環されます。日本だと装飾が済むとそのままゴミ箱行きですが、イギリスで働いていた生花店はコンポストで堆肥をつくる容器を自分たちで作っていました。当時は変わっている生花店だなと思いましたが、ガーデニングも手がけていたので、土に対する思いも強く、彼らにとって花でゴミが増えることはあり得ないことでした。命をもらって、それが花になり、最後は土になる、植物に対してこうした畏敬の念をもつことを教わったのはイギリスでした」。日本でも、ケミカルをやめていこうという農家さんが少しずつ増えています。しかし、花業界は生産性を重視する傾向がいまだ強く、いかに新種を作り、早く販売するかを競っていることに違和感を感じます。
佐藤恵美さんは、7年ほどの修行を経て帰国します。海外にいると日本の良さがわかってきたといいます。「繊細さや器用さは日本が世界で一番だと思いました。後ろ髪をひかれることは若干ありましたが、とても満足できた7年間でしたので帰国しました」。日本に帰国すると、東京のとある有名生花店で働いてみたいという思いから、面接を受けたことがあります。青山にある「ル・ベスベ」です。「いつか『ル・ベスベ』で働きたいという夢がありました。渡欧する前にもなんどかトライしようと思いましたが、自分のなかでまだだと思ってはいましたが、帰国後に面接を受けて内定をいただきました」。
それが、ちょうど東日本大地震の発生と重なりました。佐藤さんは福島の出身で、震災発生時には友人からは早く海外に逃げろと言われましたが、その時になぜか昔泊まった京都の宿の情景が浮かびました。「連絡したらたまたま1室だけ空いていたので、その宿に避難しました。パスポートがなくても行けるこんな素晴らしい日本があったのかと心から感じ、京都で植物に関わる仕事がしたいという思いに駆られました」。ただ、「ル・ベスベ」の松岡龍守さんに話をするまでは決断できませんでした。思い切って「京都で新しい自分の道を作りたい」と伝えたときに、松岡龍守さんが背中を押してくれたそうです。「高橋郁代さんの書籍『ル・ベスベ花物語』を贈り物として送ってくれました。憧れていた『ル・ベスベ』での仕事を本当に断っていいのか、とても悩みましたが、松岡さんに自分の思いを伝えたときは緊張と安堵感で涙が溢れました。そのときにはっきりと自分には使命があることを感じました」。
佐藤恵美さんは、京都に拠点を置くと決めてから直感が研ぎ澄まされて、五感がよく働くと感じるそうです。「さとう植物店」として活動を始めた佐藤さんは、西陣でのアトリエの話があったとき、夢のなかにこの風景が出てきたといいます。「これはやれということだと感じました。人生は一度きりです。華やかな花を贈ることは人から喜ばれることですが、私じゃなくてもできることです。植物が持つエネルギーや手仕事の温かさ、そういうものを伝える場がこのアトリエです。自分の中で集大成だと思っています」。
アトリエには、植物や自然から取れる原材料でつくられた日本各地のさまざまな道具が並びます。「アレカ椰子を編んだガンシナーは、沖縄の民芸品です。お供物を仏壇に飾る際に台座として使ったり、おばあたちが水瓶を頭に乗せて運ぶときにクッションがわりにしていたものです。今は水道が普及したため、本来の役目は終えているので作り手も減っています。ただ、道具として、本来の役割とは異なる使い方ができるはずです。朽ちたとしても土に還るものですし、なによりも植物のエネルギーをまた土に還せることはとても意味があることだと思います。現地の人たちは、無農薬でつくったレモングラスや稲をアンコとして入れていて、それをとても楽しんでいます。こういったことに興味を持ってくれる人はいるのかなと半信半疑ではありましたが、ワークショップを希望する方も多く、ものづくりは決して途絶えないと『さとう植物店』を始めてから実感しています」。
「海外に一度出てみて、いろいろ感じるものがあり、その経緯があって、今は納得した生活ができています。これがやりたかったのだと。日本にしかいなかったら気付かなかったかもしれません。ものごとをいろいろな視点で見ることが大事ですし、技術はあとからついてきます。なんにでも意味がありますし、巡ってくるものだと思います。この植物や道具たちが持つエネルギーをどうしても愛おしく思います。人間は敵わないなと思わされます。こんな悩みはちっぽけだと思うくらい、偉大に感じます。そこに共感してくれる人が増えてきてくれたことを実感します」。イギリスやフランスでの経験、そして沖縄を始め、滋賀や新潟での手仕事や職人との出会いが、今の「さとう植物店」をつくりあげたのかもしれません。植物からのメッセージを聞きとり、土へ循環させていくことを大切にしながら、佐藤恵美さんは日本の手仕事を今後も伝えていきます。
撮影:石川奈都子
■さとう植物店
住所:京都府京都市上京区紋屋町323
公式インスタグラム:@satoplants
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