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古道具と同じように鳥や蝶、そして植物を愛する京都・大原の「古道具屋 ツキヒホシ」
■古道具と植物の楽しみ方
聖徳太子が父・用明天皇の菩提を弔うために建立されたと伝えられる尼寺で、「平家物語」のゆかりの寺としても知られている京都・大原の寂光院。古刹へ向かう参道沿いの橋を渡ると、モミジに囲まれた「古道具屋 ツキヒホシ」があります。「古道具屋 ツキヒホシ」は、日々の暮らしに寄り添う実用的な器や籠、そして庭で栽培した植物を販売しています。花器としても使えるガラス器には、庭で摘んできた生花やドライフラワーが活けられています。目の前に流れる草生川のせせらぎの音と相まって、五感にとって心地よい空間が広がっています。
「古道具屋 ツキヒホシ」は、単に古い道具を愛でるだけではなく、新しい用途や魅力を見出して提案することを大切に考えています。店主の山本真琴さんは、「古道具の楽しみ方はひとつではないと思います。例えば、仏具として使っていた大きな妙鉢をランプシェードにリメイクしたり、古い酒器を花器に見立てて花を一輪活けてみたり。本来の用途とは別の使い方を見つけるのも古道具の楽しみ方のひとつです。今は、ガラスの古道具にグミの枝を挿して花器として楽しんでいます」と、話します。
「植物の楽しみ方も同じだと思います。都会に住んでいると花屋で買う選択肢しかないかもしれませんが、道端の草花でもいいと思います。シロツメクサ(白詰草)やねこじゃらしを1本だけでも一輪挿しにできます。このあたりはイタドリが自生していますが、私の子どもは保育園の散歩がてら、イタドリを生でぽきぽき折って食べています。生はすっぱいですが、茹でて、アク抜きをして、さらに塩漬けすると保存もできます。イタドリには鎮痛作用があり、痛みを取ることからその名が付いたようですが、昔の人はそうやって身近にある植物と暮らしてきました」。
■運命的な偶然の連続
山本真琴さんが築100年を超える大原の古い家に移り住んで、9年になります。住まいを変えることは、「自分の暮らし方をもう一度問い直す経験だった」と言います。「この古い家とのご縁をいただいてから、古い道具を大切に受け継いでいく橋渡しをしたいなと思い、『古道具屋 ツキヒホシ』を始めました。それまで古道具を集めていたわけでもない私でしたが、不思議と自然な成り行きでした。大原に引っ越してから、体の細胞が喜んでいる感じがして、今の暮らしに感謝しかありません。それまでとなにが違うのかを考えるのですが、なかなか言葉では表現できません。空気が違うのか食べている野菜が違うのか、あるいは日々、目や耳に入ってくる鳥の声や草花なのか。どれかひとつと言えなくて、丸ごとひっくるめて癒してくれていると感じます」と、今の暮らしについて話します。
この物件を見つけたのは、実は夫の陽平さん。もともと自然が好きで週末になると大原方面で過ごしたり、美味しいご飯を食べたりしていました。お二人とも学生時代はバックパッカーで、ネパールで偶然出会ったのが知り合うきっかけだったそうです。「夫は、ユーラシア大陸を旅していて、私がチベットからネパールに入った時に偶然、出会いました。あの時、二人とも旅に出ていなければ出会うこともありませんでした。今となると、人生はこういうことの連続なのかなと思います。この家と運良く出会わせてくれたのは夫で、そのことには感謝してもしきれません。何回もありがとうと言っています」。
■植物と道具が引き立てあう関係
「なるべく手のかからない多年草や樹木、ドライにして店に飾れる植物を好んで育てています。スモークツリーやミモザ、ツルウメモドキ。やまぶどう、すぐり、ヒヨドリジョウゴなんかは、実がつくととてもかわいいですね。店では四季それぞれの身近な植物をいけていますが、道具と植物がお互いを引き立てあってくれます」。
■アサギマダラとフジバカマ
山本真琴さんは、近くに畑を借りて、ズッキーニやトマト、万願寺とうがらしといった夏野菜や、秋でしたらさつまいも、落花生などを育てています。「同じ敷地を借りているおばあちゃんに教えてもらったのは、野草のゲンノショウコ。整腸作用があって、煎じて飲むと腹痛に効くのですが、身近な大先輩から昔の知恵を見聞きできることは楽しいですね」と、話します。
「畑や庭では、アサギマダラという旅する蝶が好むフジバカマ(藤袴)を育てています。フジバカマは、匂いがいいので昔の人は乾かしたものを袂に入れて楽しんでいました。アサギマダラは『鬼滅の刃』に登場する胡蝶しのぶのモデルになった蝶でもあって、とても綺麗な姿なので、見たらすぐにわかります。大原でアサギマダラの保護活動をしている方がいて、フジバカマの株を分けてもらい育てています。アサギマダラは、日本から海を超えて遠く台湾まで旅をすることで知られている蝶です。世代交代をしながら海を超えていく蝶で、例えば東北で生まれたアサギマダラが南下して九州あたりで息絶えても、その子が海を超えていき、季節が変わるとまた北上して戻ってきます。風に乗れば最長で100キロメートルは飛ぶそうです。その蝶が好むフジバカマは、原種に近いものと園芸品種では育ち方が違うようですが、庭にあるフジバカマは細かい薄ピンクの花が咲きます。今年もちゃんとアサギマダラが飛んできてくれました」。
■夏の畑では植物のエネルギー感じる
山本真琴さんは、大原に住んでいると毎日のように植物や自然の力を実感できると言います。「夏であればひと雨であっという間に草が生い茂り、植物の成長や土のエネルギーを強く感じます。多年草を育てていると、時期が重なったりずれたりすることがあったとしても毎年必ず芽吹き、実りをもたらしてくれます。そういった四季の巡りを日々体感していると、感謝の気持ちが自然と湧いてきます」。
「野菜も自分で育ててみると、なにがいつ旬なのかがわかってきます。たまにスーパーマーケットに行くと、冬でもピーマンやナスが置かれていて違和感を感じます。大原の朝市に行くと、例えば7月にはズッキーニばかり、9月にはオクラと万願寺とうがらしばかり、といったことがよくありますが、旬とはそういうものなのだと思います。農業の大変さもよくわかります。労力のわりに野菜は価格が安くて、こんなに安くていいのかなと感じます。最近は、作り手によって味の違いもちょっとわかるようになってきました。農家さんの繊細さや人柄が出ているように感じます」。
■植物がない冬は店も寂しくなる
「冬になると店は冬季休業します。その時期は、ドライをのぞくと青々とした植物や花がなくなるので、そうすると店がすごく寂しくなります。古物が活きて見えなくなります。3月に再開しますが、その時期にちょうどいろいろなものが芽吹き始めることを感じます。その初々しい植物をひとつ入れると、雰囲気がぐっと変わります。植物だけでも成り立たないですし、古物だけでも成り立たちません。現代の大量生産品は双子のように一緒、線も直線で揃っています。古物はたいてい歪んでいて、高さも異なり、表面にゆらぎがあったりします。そうした不揃いな感じと植物が合うのかなと思います。ちょっとずつ違うことが自然なことなんだと。学校や社会でも人はみんな同じではなく、それぞれの違いを活かしながら暮らすのがいいな、と感じています」。
■店名の「ツキヒホシ」
店名の「ツキヒホシ」は、鳴き声が「ツキ(月)、ヒ(日)、ホシ(星)」と聞こえることから「三光鳥(サンコウチョウ)」と名付けられた鳥に由来しています。アサギマダラの蝶が降り立つために庭でフジバカマを育てる山本真琴さん。鳥や蝶、そして植物といった自然に対する愛情を「古道具屋 ツキヒホシ」に感じてなりません。
撮影:石川奈都子
■「古道具屋 ツキヒホシ
住所:京都府京都市左京区大原草生町70
不定休
公式インスタグラム:tsuki_hi_hoshi.antiques
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