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コラム「古典に咲く花」 第7回「椿」

2024.03.27 / 月野木若菜
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ツバキは神聖な樹木として様々な古典に登場しますが、漢字表記はいろいろで、古事記では「都婆岐」日本書記には「海石榴」と記されています。私たちに馴染みのある「椿」の文字は、万葉集で初めて目にされます。

椿は「木偏に春」と書かれるように、まさに春を代表する堂々と美しい花木の一つで、古くから日本の山野に自生し赤や白の美しい花を咲かせます。庭木を始め、化粧品、椿油としても用いられ、日本人に長く親しまれてきました。

海外では17世紀頃から存在が知られるようになり、上流階級の間で大流行。19世紀には小説「椿姫」のオペラ化により、その人気は更に定着しました。代表的な椿の種ヤブツバキは、「カメリア・ジャポニカ」という学名が付けられ、ココ・シャネルが生涯愛した花でもあります。日本原産でありながらも世界で広く好まれている椿の存在は偉大です。

古典を繙きますと、「古事記」の夫婦和合の神話から、神聖な象徴「連理の玉椿」が出雲の八重垣神社に樹齢を重ねています。「日本書紀」には、木の堅さをもって強靭な武器となった椿の椎(つい)の事が記され、奈良時代には、霊力の高い椿の杖が邪気祓いの儀式に「卯杖(うづゑ)」として用いられていた記録もあります(正倉院に二本収蔵)。

平安時代、貴族の間で椿は最高の「吉祥木」とされ、「高貴な花」「聖なる花」と称され、神社仏閣に植えられ屏風絵にも多く描かれるようになります。「源氏物語」(若菜上の巻)には、花ではなくお菓子の「椿餅」が登場。春の夕暮れ、六條院で蹴鞠に興じた後の若君たちが描かれる場面でのことです。

「次々の殿上人は簣子(すのこ)に円座(わらふだ)召して、わざとなく椿餅(つばいもちひ)、梨(なし)、柑子(かうじ)やうの物どもさまざまに箱の蓋どもにとりまぜつつあるを、若き人々そぼれとり食ふ」。

この様子を今風に言い替えますと、「パス回しで盛り上がった後、興奮気味の公達たちは、丸い縄のフロアクッションをスノコに敷いて座り込み、ちょっとふざけたりしながら無造作にスイーツやフルーツに手を伸ばしている。公達と云えども、盛り合わせプレートから気楽にはしゃいで食べている」という感じです。

「運動の後は甘いものだよね」「椿餅、もう5個目」「椿餅激ウマ」(と言ったかどうかは分りませんが)、腹持ちが良く、貴重な甘味の椿餅が人気だったことは確かでしょう。艶やかな椿の葉が添えられた椿餅は、日本最古の餅菓子とも言われています。そのモチーフになる程、椿の花は平安貴族に身近で深く愛されていたことがよく分ります。

現在約五千種あると言われる椿。品種改良は今も続いています。知る程に奥が深い花。あなたのお好みを是非見つけてみて下さい。

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華道家 中村俊月 Shungetsu Nakamura
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