TOP > News記事一覧 > コラム「古典に咲く花」 第12回「女郎花」
Share This Articles

Latest Story

Latest Story

コラム「古典に咲く花」 第12回「女郎花」

2024.08.21 / 月野木若菜
Share This Articles

女郎花(をみなへし)は、秋の七草の一つ。すらりと伸びた茎、可憐な黄色の小花、秋風にしなやかに揺れる姿、そして「をみな=女」の名から、和歌では大変に好まれ、古今集に多く詠まれている花です。

平安貴族の優美な遊びに、女郎花の花と歌を持ち寄りふた組で優劣を競う「女郎花合」(をみなへしあはせ)というものがあったのですが、ある歌合せに、「小倉山 峰たちならし鳴く鹿の 経(へ)にけむ秋を しる人ぞなき」という紀貫之の歌が残っています。

これは、(小倉山の峰を平らに均してしまうほど、行ったり来たり相手を探し求めて鳴く鹿。その鹿ほどに、何年も経て秋を知り尽くす人なんてどこにもいない)と、読者に「幻の美しい女性」と「秋の寂しさ」を想像させる歌ですが、なんと、歌の一文字目に「を・み・な・へ・し」の文字を見事に折りこんだ「折句」になっています。

を ぐらやま 
み ねたちならし 
な くしかの 
へ にけむあきを 
し るひとぞなき

流石、貫之は和歌のテクニシャンですね。

さて、『紫式部日記』にも女郎花は登場します。既に43歳という立派な老人の道長が、これまた30代のそろそろ老齢に差し掛かる子持ち未亡人の紫式部に向けて、朝露に濡れた庭の女郎花を手折って几帳越しに贈ることから始まる大人のやり取りの場面です。

当時の〝イケおじ″の道長は、寝起きの顔を見せたくない紫式部の女心を察して、彼女が部屋に籠っていられるよう、「花を受け取った返事の歌は、遅くなっては良くないね」と言い、硯に向かうよう促します。こんなさり気ない台詞を咄嗟に口に出し、紫式部に部屋に籠る口実をかこつけてあげられるなんて、やはり平安時代から、イケおじは抜群に気が利いている!

紫式部が詠んだ歌は、「女郎花盛りの色を見るからに 露のわきける身こそ知らるれ」

(朝露に美しく染められた女郎花の盛りの色を見た途端に、露にさえも区別されてしまう私の不遇が思い知らされることです)と、年齢を重ねた我が身を嘆きます。それを受けて道長は、「白露はわきてもおかじ女郎花 心からにや色の染むらむ」と返します。

(白露が、あなたと女郎花を分け隔てることなどないのですよ。おみなえしが美しいのは、「美しくあろう」とする心によって、美しい色に染まるのですから)

美しさに年齢は関係なく、その人の心次第。もちろん貴女もそうですよ…と、優しく励ましてくれる道長さま。女性のハートを掴みますね。日当りの良い山野に明るい黄を放つ女郎花。この秋に出会いたいものです。 

Management

華道家 中村俊月 Shungetsu Nakamura
Shungetsu Nakamura
Shungetsu Nakamura
華道家 中村俊月 Shungetsu Nakamura

TAG